『天地無用』は、上下を逆にしてはいけないという意味です。
宅配の荷物で見かける『天地無用』の表示ですが、その意味を間違えて解釈してしまうことがよくあります。
●なぜ間違えやすいのか?
●なぜその表現になったのか?
その語源や気になるポイントを解説していますので、是非続きもご覧ください!
『天地無用』の語源は『天地〇〇無用』
意味を間違えやすい『天地無用』ですが、実はその語源は『天地〇〇無用』という6文字の言葉だったのです。
早速、語源となった『天地〇〇無用』について順番に解説していきます。
まずは『天地無用』を分解する
『天地無用』の言葉の意味は、「天地」「無用」のように2文字ずつに分けて考えると半分理解できます。「天地」と「無用」はそれぞれ次のような意味を持っています。
天地 | 「上下」 |
無用 | 「〇〇してはならない」 (強い禁止表現) |
2つを繋げると【上下を〇〇してはならない】という意味になりますが、それだけでは何をしてはいけないのか伝わりません。
肝心な【〇〇】の表現が抜けてしまっているため、【上下を気にしなくてよい】という本来の意味とは違ったイメージを持つ人が出てしまうのです。
『天地〇〇無用』の”〇〇”に入る言葉
「天地」と「無用」の意味がわかったところで続きをお話ししていきます。
先ほどお伝えした通り、『天地無用』には、もともと「天地」と「無用」の間にもう2文字の言葉が存在していたのです。
天地〇〇無用 | 意味 |
天地 ”入替” 無用 | 上下を”入れ替えては”いけない |
天地 ”転倒” 無用 | 上下を(があるから)”横に倒しては”いけない |
もともと運送業界で「天地入替無用」や「天地転倒無用」という表現で使用されており、いつしか真ん中の2つの文字を省略して4文字熟語のように『天地無用』として使うように変わっていきました。
この経緯を知っていれば「なるほど!」と納得できるのですが、そこまで推測して理解するのはなかなか難しいですね。
『天地無用』の意味を間違えていた人が30%
平成25年(2013年)の世論調査で『天地無用』の意味についての調査があり、【上下を気にしないでよい】【上下を逆にしてはいけない】を回答の選択肢にしたところ次のような結果が出ています。
上下を気にしないでよい | 29.2% |
上下を逆にしてはいけない | 55.5% |
それ以外の回答 ※ | 15.3% |
※「どちらも正解」「どちらも不正解」「わからない」を選択した回答
こちらの調査の詳細は、 平成25年度の「国語に関する世論調査」 の19ページあたりから詳しくご覧いただけます。
約3割の人が【上下を気にしなくてよい】と回答しており、『天地無用』の4文字だけでは、本当の意味が伝わりにくいことがわかります。
それ以外(わからない等)の回答を含めると、なんと44.5%の人が不正解。
約半数がわからなかったということになります。
『天地無用』はなぜ間違えられやすい?
『天地無用』を【上下を気にしなくてよい】という意味で受け取る人が多いのには,どのような理由があるでしょうか。
「無用」は3つの意味を持っている
「無用」という言葉の意味を見てみましょう。
意味 | 使用例 | |
A | してはならないこと | 天地無用 立入り無用 |
B | いらないこと | 心配無用 問答無用 |
C | 役に立たないこと | 無用の長物 |
(A)から(C)のように、3つの意味で使われています。
『天地無用』の「無用」は「してはならないこと」という(A)の例に該当します。
同じく(A)に該当する「立入り無用」は「立ち入ってはいけない」という意味で、これはわかりやすいですね。
大事な情報が抜けてしまっている『天地無用』は、意味が伝わりにくいことがよくわかります。
「無用」を別の言葉に置き換えてみる
『天地無用』を含む(A)の表現は,注意書きなどで良く目にしますが、最近は「禁止」や「〜はしないで」「〜はご遠慮ください」のような表現がよく使われるようになってきています。
『天地無用』をこのケースにはめてみましたが、明らかに違和感があり余計に意味がわかりません。
○○無用 | ○○禁止 | ○○はしないで(ご遠慮ください) |
ポイ捨て無用 | ポイ捨て禁止 | ポイ捨てはしないで! |
立ち入り無用 | 立ち入り禁止 | 立ち入りはご遠慮ください! |
天地無用 | 天地禁止 | 天地はしないで! |
『天地無用』は何が無用なのかを示す言葉が抜けてしまっている分、その意味がすぐに理解できません。
最終的に意味が繋がる解釈をする
ここまでの流れでお分かりの通り、『天地無用』を言葉のままとらえると、3つの意味の中から自然と(B)・(C)の「いらないこと」「役に立たないこと」を選択してしまいやすくなるのです。
(A)よりも(B)・(C)の方が、日常的に使われる機会が多いのも原因のひとつだと思います。
結果として、『天地無用』は「天地はいらない=上下を気にしなくてよい」という誤った解釈をされやすくなります。
もはや『天地無用』という4文字の表現では本来伝えたい意図が伝わらないことから、多くの配送業者はその表記を改め、『天地無用』のシールに矢印で↑↑(上)を示す記号を入れたり、『↑UP』の表記に変えるなどしています。
文字だけではなく、ピクトグラムのように視覚的に意図を伝える表現を改善策として選んだわけですね。
『天地無用』と同じ意味で「無用」を使う間違えやすい言葉
『天地無用』と同じ意味で「無用」を使っている言葉を1つご紹介しておきますね。
こちらも意味をとり違えないように注意が必要です。
『他言無用』も『天地無用』と同じ(A)のパターンの意味が採用されていて間違えやすい言葉です。
『他言無用』は、内密の話題について【他の人に言い漏らしてはいけない】と伝えるための言い回し。
(B)・(C)パターンにはめてしまうと、「他言しなくても良いし、しても良い」と解釈されかねません。
『他言無用』の「無用」は、「他言禁止」と表現するべきなのです。
要するに「他の誰にも言わないで!」ということになります。
『天地無用』や『他言無用』のように、解釈があいまいな言葉は、気をつけて使うようにしましょう。
【相手に伝わる伝え方】を最優先しよう
『天地無用』は、”上下を逆にしてはいけない”という意味でした。
『天地無用』のように、間違った意味で解釈されやすい言葉は世の中にたくさん存在しています。
一度知ってしまえば何てことないですが、言葉は「伝える側」と「受け取る側」双方が理解して初めて意味を成します。
こういった事例から学ぶことは、難しい言葉を知り、それを使えることばかりが正義ではないということです。
相手に何かを伝えるためには、【相手に伝わりやすい伝え方】を最優先しなくてはいけませんね。
● 文字で伝えるのが良いのか
● 視覚的に伝えるのが良いのか
● 音声で伝えるのが良いのか
お届けするための選択肢を検討できるとより良いでしょう。
私自身も、ブログという形で文章を発信しておりますので、この観点は大事にしていかなくてはと常に考えています。
最後までご覧いただきありがとうございました。